MENU

#11 食用きのこにおけるγ-アミノ酪酸(GABA)生成酵素に関する研究

健康科学部 健康栄養学科 助教
岩本 和子
研究分野:農芸化学、食品科学

 

研究内容を教えてください。

食用きのこにおける機能性アミノ酸に関する研究を行っています。

このテーマで研究を始められたきっかけや経緯を教えてください

人にとって、微生物によって食べ物が美味しくなることを発酵といい、逆に微生物によって食べられなくなることを腐敗といいます。日本の高温多湿の風土は微生物の生育に適しており、古くから微生物を利用した食品が食べられてきました。私たちが “きのこ” とよんでいるものも同様に、食べる微生物として日本人に馴染みのある食材です。きのこは微生物の真菌類がつくる糸状の菌糸が集まってできたもので、植物で例えると果実や花に相当する部分とされています。
きのこの種類は多く存在し、日本には名前がついている種類でも約 3,000 種類、名前がついていないものも含めると 10,000 種類を超えるとされています。一般的に、きのこは低カロリーで食物繊維が豊富、また、ビタミンがミネラルを多く含んでいるため、ダイエット食として馴染みがあります。しかし、きのこは菌糸から子実体(私たちが普段きのことよんでいる傘とひだの部分です)がどのようなメカニズムで形成されるのか明らかになっていないなど、まだまだ知られていないことが多くあり、色々ときのこについて調べていく中で、きのこ中の機能性アミノ酸に興味をもち、研究を始めるきっかけとなりました。

 

実際にどのようなことを調べてこられたのでしょうか

きのこに含まれる遊離アミノ酸についてはいくつかの報告がされており、その中でγ-アミノ酪酸(一般的に GABA とよばれています)やオルニチンなどのアミノ酸がきのこにも一定量含まれていると報告されているにもかかわらず、あまり注目されていませんでした。

GABA はストレスの緩和、血圧降下作用、睡眠の改善、抗糖尿病作用をはじめとする様々な生理機能が期待されるアミノ酸の一種であり、近年では、乳酸菌や麹菌、発芽玄米が有する GABA 生成酵素の活性を利用した GABA 強化した食材が数多く開発されています。オルニチンはアンモニア解毒作用、成長ホルモンの分泌促進、コラーゲンの合成促進、免疫力の向上などの効果が期待されているアミノ酸です。
図. 市販食用きのこ中の GABA 含量
これらのアミノ酸について、実際にきのこ中にどれくらい含まれているか、また、他の食品と比較してどうなのかなど詳細に検討された報告がなかったため、市販のスーパーで購入可能なきのこと GABA が多く含むとされているとトマト、ジャガイモ、ナスとオルニチンを多く含むとされているシジミを用いてアミノ酸含量を測定し、比較してみました。その結果、図に示したように、ほとんどのきのこがきのこ以外の食品と比較して同等もしくはそれ以上の GABA やオルニチンを含むことがわかりました。

 

研究を進められる中で、今どのような課題や成果が見えていますか?

これまでに、トマトやジャガイモなどの食品において、GABA 高含有品種の選抜やゲノム編集食品としての GABA 高蓄積品種の開発などの研究が行われていることが報告されています。一般的に、生体内における GABA 生合成経路は、グルタミン酸からグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)の作用によって生成するとされています。きのこも GABA 生成に関与する酵素の性質を明らかにすることで、GABA 発現量をコントロールし、機能性を強化したきのこを栽培できる可能性があり、逆に、うま味成分であるグルタミン酸が GABA へと変換されるのを抑制することでうま味を強化したきのこを栽培できる可能性があります。
そこで、現在はきのこ中の GABA 生成に関与する酵素を精製し、その性質について調べています。これまでに、マイタケやシイタケの GABA 生成に関与する酵素について精製し、その性質について報告しましたが、同じきのこでもマイタケとシイタケの GABA 生成に関与する酵素の性質が異なっており、きのこにおける GABA 生成に関与する酵素についてはまだまだわからないことだらけではありますが、今後も新たな知見を得るために研究を続けていきたいと思っています。

 

学生の皆さんへ

多くの学生にとって「研究すること」とは曖昧でイメージがしにくいと思います。研究とは、物事を学術的に深く考え、調べることでそれについて根拠を持って明らかにすることです。何回も何回も調査や分析を繰り返し、失敗するたびに実験や調査の方法を見直しながら、何年も研究を続けることは珍しくありません。また、どれほどの時間や実験回数を費やしても、思うような結果が得られないこともあります。しかし、諦めずに試行錯誤を重ねた先に、新たな発見や長年の研究の成果が得られたときの達成感は得難いものです。私はその達成感を得たいがために、未だに研究を続けています。
以前に、研究の魅力は研究者の数だけあるという言葉を聞いたことがあります。皆さんに少しでも研究って面白そう、楽しそうと興味をもってもらえると嬉しいです。