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低出生体重児の予防につながる栄養支援の在り方の検討

健康科学部 健康栄養学科
黒川 浩美
研究分野:健康教育学、母性栄養学

 

日本では、低出生体重児の割合が世界的に見ても高く、近年も横ばいの状況が続いています。
低体重出生児は、体が小さく生まれることにより体温調節や呼吸など様々な機能が未熟で、感染症のリスクが高まるほか、将来的にも生活習慣病などのリスクが増加すると言われています。
そのため、低体重出生児を減らすことは、国民の健康増進の観点からも極めて大きな意義があります。
健康栄養学科の黒川 准教授は、病院栄養士として健康な妊婦から低体重出生児が生まれると言う状況に疑問を抱いた経験をきっかけとし、低出生体重児の予防につながる栄養支援の在り方を検討しています。

 

研究テーマを教えてください

妊娠前から妊娠期における女性の体格や生活習慣と、生まれてきた児(子ども)の出生体重との関連に関する研究を行っています。
特に、若年女性の体型認識や朝食摂取習慣に着目し、低出生体重児の予防につながる栄養支援の在り方を検討しています。

日本では、低出生体重児の出生が増加傾向にあります。近年、男女ともに低出生体重児の割合は横ばいですが、他国と比較して依然として高い状況です

【出生体重】
2,500g 未満:低出生体重児
2,500g 以上:普通体重児

【妊娠前妊婦の体格区分の BMI】
✳︎ 18.5 未満:痩せ妊婦
✳︎ 18.5 以上 25.0 未満:標準妊婦
✳︎ 25.0 以上:肥満妊婦

 

それはどういった内容の研究ですか?

この研究の目的は、妊娠前および妊娠期の体格や生活習慣が、児の出生体重にどのように影響するのかを明らかにし、妊婦本人や支援者が共有できる、早期介入の視点と具体的な栄養指導の手がかりを示すことです。
正期産で出産した妊婦を対象に、妊娠前の体格や生活習慣についても調査・分析を行っています。
研究では、体格や生活習慣に加えて、食事内容や栄養摂取状況にも注目しました。特に、妊娠前の食習慣や身体活動量が、児の健康や発育に及ぼす影響を多角的に分析しています。また、社会的背景や情報リテラシーの違いが、健康行動の選択や実践にどのように関与しているかも調査対象としました。
体格は一般的な指標である BMI を用いて評価し、特に妊娠前体重 50kg 未満の妊婦に着目しました。若い女性の間には、「50kg 以下が理想」という体型認識、いわゆる「50kg の壁」が存在し、同じ 50kg でも身長によって体格の意味は大きく異なることがわかっています。
妊娠前体重 50kg 未満・以上で比較したところ、50kg 未満の妊婦では BMI が低く、児の出生体重も有意に小さい結果が得られました。
さらに、若年女性で問題となりやすい朝食摂取習慣に着目し、朝食摂取状況別に分析した結果、朝食を摂取しない妊婦では、児の出生体重が最も小さく、摂取エネルギー量も少ないことが示されました。

 

このテーマで研究を始められたきっかけを教えてください。

病院で管理栄養士として妊婦さんと関わる中で、「医学的に大きな問題が指摘されていないにもかかわらず、低出生体重児が生まれる」という現場での状況に、強く疑問を感じたことがきっかけです。
特に、妊娠前からやせ体型である妊婦さんや、朝食を摂らない生活習慣を持つ妊婦さんに共通点を感じ、その背景を丁寧に掘り下げる必要性を感じました。
この現場での違和感を、科学的に検証したいと考え、本研究を進めてきました。

研究を通して、今どのような課題や成果が見えていますか?

研究を進める中で、「低出生体重児を減らすために、妊娠前からできることがある」という視点が明確になってきました。
実際に妊婦さんと関わる中で感じた疑問を突き詰めた結果、以下の点が重要であることが見えてきました。

・妊娠 20 週時点で体重増加が約 3kg であるかを確認することが、栄養指導介入の一つのきっかけとなる
・妊娠中期はヘモグロビン値が高く出やすく、「数値が良好だから安心」とは言い切れない
・栄養素の供給源について、指導者と妊婦本人との認識に違いがないか、丁寧な情報共有が必要
・妊娠前体重が 50kg 未満の場合、その体型を形成してきた生活背景や経緯を把握することが重要

これらは、既存の指針だけでは拾いきれない、現場経験に基づく栄養指導上の注意点として得られた知見です。
本研究が、少しでも低出生体重児の低減に寄与できればと考えています。

研究の成果として、
・妊娠前体重 50kg 未満の妊婦では、児の出生体重が有意に小さい
・朝食摂取習慣のない妊婦では、児の体重・摂取エネルギーともに低い
ことが明らかになりました。

また、妊娠 20 週時点での体重増加 3kg が一つの確認指標となり、この時点での評価が、栄養指導介入の重要なきっかけになる可能性が示されました。
一方で、妊娠中期はヘモグロビン値が高く出やすいため、「数値が良好だから安心」と判断してしまう危険性もあり、貧血評価や栄養状態の見極めには注意が必要であることも課題として見えてきました。

本学の学生は研究活動に何らかの形で関わっていますか?

学生に対しては授業や演習の中で本研究のデータや実際の臨床経験を紹介し、妊婦の栄養指導で何に注意すべきかを、具体的な事例を通して学ぶ教育を行っています。

写真 1:臨床栄養学実習の中で、看護学科と合同で症例検討を行う(グループワーク) / 写真 2:多職種の視点を取り入れ、症例について発表・共有する(発表)

また、臨床栄養学実習の一環として、看護学科との合同授業を実施し、症例をもとに、多職種それぞれの立場から課題を整理し、グループで検討・発表する学びを取り入れています。
栄養と看護の視点を共有することで、一つの専門だけでは捉えきれない支援の在り方があることを理解する機会となっています。
さらに、体型認識や朝食習慣といったテーマは学生自身の生活とも重なるため、「将来、支援する立場になる前に、自分自身の体や生活を振り返る」ことを促す学びとしても活用しています。

 

今後の展望や目標について教えてください

今後は、妊娠期だけでなく、妊娠前からの体型形成の経緯や生活背景を把握した栄養支援の重要性を、医療現場や教育の場で広く共有していきたいと考えています。
また、妊婦さんと指導者との間で、「栄養素の供給源や食事の捉え方にズレがないか」を丁寧に確認し、対話を重視した栄養指導につなげることを目標としています。

最後に、管理栄養士をめざす学生、高校生の方へのメッセージをお願いします

体は、これまでの食事や生活習慣の積み重ねでつくられます。
妊娠前の体型や朝食習慣も、将来の選択や次の世代の健康につながっています。

栄養の知識は、数字を覚えることだけでなく、人の背景や思いを理解する力でもあります。
食と健康に関心のある方と、一緒に学び、考えていけたら嬉しいです。