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介護から考える「人に寄り添う」こころ

介護福祉別科 上野山 和杜
研究分野:介護、社会福祉

 

介護福祉別科の上野山教員は、介護福祉士として施設で高齢者介護に携わった経験を活かし、次代の介護分野を担う人材の育成に力を注いでいます。自身が介護福祉士として大切にしていること、学生に伝えたいこと、これからの介護分野にかける思いを聞きました。

 

私は、小中学生の頃から「介護」という職種に興味を持ち出しました。
現代では、介護という言葉は日常的によく耳にする言葉でもあります。「介護」の字を分解してみますと、「介」は間に入る仲介などの言葉でも使われる漢字です。「護」とは、まもるや付き添うといった意味が含まれます。すなわち、心身ともに介護が必要な方に対して支援をするのが介護福祉士の役割でもあります。
一見、介護は日常生活に支障きたし、身の回りのことがご自身でできない方に対し介護者が代わりに行うイメージが強いかと思われます。しかし、介護福祉士は専門的な視点から「残存能力」に着眼し、その方の能力を引き出し、できる限りご自身で日常的な動作を行っていただく等、専門職としてのものの見方が必要になります。
人に寄り添い、相手を思いやる気持ちが介護者として必要なスキルであり、生活の質(Quality of life)を確保する支援が大切だと考えています。

高齢者の入所施設での介護福祉士として心がけてきたこと

介護実務時代、主に入所系の施設で働いていました。介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)や介護老人保健施設といった、常時介護が必要な方を対象とした施設で日常生活の支援を行う介護福祉士としての勤務です。
要介護度も重度な方が多く、コミュニケーションが図れない高齢者も居られました。しかし、コミュニケーションができない、会話が成り立たないからと言って介護者主導の介護は絶対に行わず、高齢者の想いをくみ取る支援に重点をおいていました。
人は目に見えない「こころ」を備えています。喜怒哀楽という感情が誰にでもあります。そんな中、大切にしている関りは、言語だけではなく、表情やしぐさ・行動など多面的に表現される非言語コミュニケーションです。言葉の壁を乗り越え、真なる自身を表出される高齢者の方とのコミュニケーションを、大切に行ってきました。

なぜ介護福祉士を目指そうと決めたのか

介護福祉士を目指すきっかけは、祖母の認知症でした。幼い頃から祖母と過ごす時間が好きで、祖母は私にとって特別な存在でした。しかし、年を重ねるにつれて、徐々に記憶を失い、昔のような笑顔を見せることが少なくなってしまいました。そんな状況を目の当たりにし、どうにか祖母を助けたいという気持ちが芽生えました。
中学校の職場体験では、介護施設での実習を選びました。初めての体験で緊張しましたが、そこで多くの高齢者と触れ合う中で、同じような境遇の方々に寄り添う大切さを実感しました。その中で、認知症の方々が持つ思い出の中での喜びや、心のつながりを育む仕事の意義を感じることができました。人と直接関わる仕事に就きたいという私の気持ちがさらに強まりました。
介護福祉士という職業は、ただの仕事にとどまらず、人生の一部を共に支えるという責任のある仕事だと自負しています。

 

教育者としての理念とメソッド

私の独自の教育理念は「心と技の融合」です。介護福祉士の役割は、単に技術を教えることではなく、心の温もりを伝えることにあります。
メソッドとしては、実践的な演習を重視し、現場のリアルな状況を模したシミュレーションを取り入れていきたいと考えています。また、学生同士のディスカッションを通じて、共感力やコミュニケーション能力を高めることを目指します。介護職は、相手の気持ちを理解し、寄り添う力が求められます。そのためには、知識や技術の習得だけでなく、感情面での成長も重要です。この教育理念をもとに、愛のある介護を提供できる人材を育成していきたいと考えています。

介護福祉士として感じる課題、これからの介護

介護福祉士として働く中で、今最も感じる課題は人手不足です。社会の高齢化が進む中、介護のニーズは増加していますが、現場は慢性的な人手不足に悩まされています。スタッフが不足することで、一人ひとりの利用者に対する時間が限られ、十分なケアが難しくなってくるのではないかと、心苦しい課題であると思います。
今後、介護福祉士として求められるスキルも変化していくでしょう。テクノロジーの導入が進み、ロボットや AI を活用したサービスが増える中で、私たち介護福祉職は新しい技術を取り入れつつ、人間らしい温かさを持ったケアを提供し続ける必要があります。また、介護職の魅力を伝え、若い人材を引き寄せる取り組みも重要です。何より、チームで支え合う環境を整え、質の高い介護を実現したいと考えています。

今後の目標と将来の展望

介護業界は今後ますます重要な役割を果たすと考えています。高齢化が進む中で、質の高い介護サービスを提供することが求められています。私の目標は、介護福祉士としての専門知識を深め、利用者一人ひとりに寄り添った真心のこもったケアを行うことです。そのためには、最新の介護技術や心理学を学び続ける姿勢が不可欠です。
介護福祉士養成課程では、実践的なスキルを身につけると同時に、倫理観やコミュニケーション能力も養います。将来的には、経験を積んだ後、若い世代の養成にも携わりたいと考えています。新しい介護のスタンダードを作り、多くの人々が安心して暮らせる社会に貢献することが、私の大切な展望です。挑戦は多いですが、目標に向かって一歩ずつ進んでいきます。

皆さんへのメッセージ

介護の魅力は、多くの人々の生活を支えることにあります。高校生や学生の皆さん、介護福祉士の仕事はただの職業ではなく、やりがいのある生涯の仕事です。高齢者や障がい者と接する中で、感謝の言葉や笑顔をもらう瞬間は何物にも代え難い喜びです。
地域の方々と協力し、一緒に勉強することで、介護の現場での理解が深まります。例えば、介護の技術やコミュニケーションの大切さを学ぶと、より多くの人々に寄り添える力が養われます。介護に興味がある方は、ぜひこの分野での学習を考えてみてください。みなさんの手で誰かの人生を豊かにする、素晴らしい仕事が待っていると確信しています。